2024-03-29

About A3 project

 

 

 


事業概要

 本事業は、日本・中国・韓国の研究機関が連携して世界トップレベルの学術研究を達成するために、三か国が協同して「有機-無機ナノハイブリッドプラットフォームを用いた腫瘍の精密イメージングと治療」を実現すると共に、優秀な若手研究者の育成を通じて、世界的水準の研究拠点を構築することを目的とする。

 日本側の拠点機関である大阪大学は、平成24年度から26年度にかけて、「最先端国際ナノデバイス研究コンソーシアムへの派遣によるグローバル若手研究者の育成」に力に入れ、ベルギー、オランダ、ドイツ、デンマークなどのEU各国へ若手研究者を派遣し、最先端の金属ナノ材料、再生可能エネルギー、及び新たな生体センサーなど研究を行った。中でも、健康管理に関する生体情報の収集研究が注目されている。日中韓が高齢化社会を迎えた今、全ての人が健康かつ快適に暮らすために、現代病の中でも発症率の高い『がん』の早期発見・治療が重要な課題となってきた。そこで、我々は中国と韓国の研究機関と連携し、ナノ材料を用いて早期がんを発見する次世代ナノ診断および治療デバイスの研究計画を進めてきた。さらに、大阪大学は独自のプログラムに基づき中国の大学と連携し、平成27年度から3年間にわたり「グラフェンによる金属ナノワイヤの信頼性向上技術の開発」を研究している。生体に安全なグラフェン材料を用いて、抗菌性を持つ銀ナノワイヤの信頼性を向上させ、透明性が高く、導電性、柔軟性、伸縮性に優れ、かつ低コスト生体センサーを開発した。簡単に身体に装着し、心拍、脈拍、呼吸などの生体情報計測が可能となり、疾病の診断や早期発見及び健康管理への応用が期待されている。

 一方、中国側拠点機関である中国東華大学は、生体材料評価の臨床研究が盛んであり、測定評価装置のシステム環境が整っており、生体材料の生体内・外での化学的耐久性、生体安全性、生体組織適合性、及び生体内環境での材料設計、作製及び性質の予測などに豊富な経験と技術を持っている。最近、特殊なデンドリマー有機物をナノ金属材料で表面修飾することにより、腫瘍のイメージング診断及び治療方法を研究してきた。韓国側拠点機関である韓国梨花女子大学校では、層状複水酸化物材料(LDH)の設計と作製に秀でており、抗体や薬剤をLDHの層間に挿入し、生体内部での薬物送達及びがんの早期イメージング診断などの技術を持っている。これらそれぞれの独自技術を背景とし、お互いの強みを生かしながら、新規金属・金属酸化物ナノ材料を創成し、デンドリマー修飾による生体環境での安全性と反応メカニズムを解明して生体組織適合性を検証しつつ、特定のがん細胞を認識する抗体または薬剤をナノ材料に取り込み腫瘍表面近傍に選択的に投入する。これにより腫瘍の形状、サイズや進行度をイメージングする診断やそれに基づく治療の可能性を見出してゆく。

 

 

事業計画

 本事業は、生体安全性がある多機能性有機/無機ナノハイブリッドプラットフォームを設計開発し、正確な腫瘍診断および治療を行う研究を進めるとともに、日中韓の基礎研究と他文化圏に対する理解度を深め、若手研究者を育成する事も目標としている。

 研究内容としては、日本側は、金属及び金属酸化物ナノ材料を設計、作製及び性質を特定して、中韓に提供する。中国側は、デンドリマーでこのナノ材料を表面修飾し、良好な汚物付着防止特性及び標的指向性を付与し、インビトロ細胞毒性及び生体組織適合性を評価し、がんのイメージング診断と治療を試みる。韓国側は、この安全な有機/無機ナノ材料をプラットフォームとして、抗がん剤を特定の腫瘍へ送達し、治療効果を評価する。この一連の研究により、ナノ材料と生体細胞間の反応メカニズムを解明し、この有機/無機ナノ材料の設計を改善する。金属及び金属酸化物ナノ粒子(TiO2, MoO3)を層状複水酸化物(LDH)粒子に取り込み、より良い構造を生成し、複数の抗がん剤が搭載できる有機/無機ナノ材料を設計・創成し、インビトロ及びインビボで細胞毒性及び生体組織適合性を確認する。さらに、この無機/有機ナノ材料を最適化して細胞内に取り込み、ハイブリッドナノ粒子-細胞構造(HNCS)を形成する。最終ステージでは、T-細胞または幹細胞を用いてHNCS細胞における薬物の吸収、分布、代謝、排泄の動態経時変化を分析し、化学療法/放射線療法/光熱療法などを併用して、マウスまたはラットにおけるHNCSのインビボ毒性を評価し、多機能性有機/無機ナノハイブリッドプラットフォームを確立する。

 若手研究者育成として、研究者の相互派遣及びセミナーの開催を予定している。相互派遣では、若手研究員・大学院生を中心に派遣し、異国間の若手同士の研究打ち合わせ、実験の共同作業を行うことで、若手研究者の他文化圏に対する理解度を高める。また、セミナーでは、若手・大学院生が主催するセッションを開き、英語での発表、質疑、応答を行うことで、若手研究者の国際会議対応能力の向上が期待できる。これらの活動を通して、若手研究者や学生が国際舞台で活躍できる場を提供し、研究発表能力の強化に向けた指導を行う。さらに、本事業において日中韓の連携機関で構築されたネットワークを基盤にし、事業終了後も共同研究に取り組むことが可能である。日中韓の若手研究者の更なる繋がりと発展が期待できる。